国際バカロレアをご存知でしょうか。
普段、TOEIC L&Rを中心に勉強している人には馴染みがなく、また興味が薄い話かもしれませんが、英語学習者目線、駐在員目線で簡単にまとめてみたいと思います。
そもそも「バカロレア」って何だ?
「国際バカロレア」を説明する前に、「バカロレア」という単語の意味をご存知でしょうか。
バカロレアの意味もよくわからないのに、国際バカロレアと言われても困ります。
響きから想像がつくかもしれませんが、バカロレアは“baccalaureate”と綴り、英語ではなく仏語です。
発音記号は[bæ`kəlɔ’ːriət]と書き、「バァカァロォーリィアット」って感じで発音しますよ。
TOEICでは出てきませんし英検1級でも出てこないと思います。
そしてその意味も「フランスの国家学位」のことで、分かりやすく言うと「フランスの中等普通教育の修了資格証明、兼大学入学資格証明」のことを指します。
このバカロレアはフランスの教育省が発行するものですので当然フランス国内だけで有効。
日本はもちろん、その他欧州やアメリカなんかでも意味を持ちません。
そんな中、1968年に誕生したのが国際バカロレアです。2018年でちょうど50周年ですね。
フランスのバカロレアと同様に、「大学入学資格証明」の意味もありますが、以前には“International Baccalaureate Organization”という名の団体名としても取り扱われていました (その後2007年に現在IBに変更)。
「国際バカロレア」は何のためにあるの?ってか資格なの?
ではこの国際バカロレアは何を目的に存在しているのでしょう?
国際バカロレアの目的は簡単にまとめると以下の2点でしょう。
- 国際的に活躍できる難関大への入学資格を行い、大学進学へのルートを確保すること (資格の意味で)
- 共通カリキュラムの作成・世界共通の国際バカロレア試験の実施・資格の授与すること (団体の意味で)
これらの目的を達成すべく、世界の小学校、中学校、高校、大学にて国際バカロレアプログラムが運営されるわけです。
そのプログラムを簡単にまとめると、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成する内容となっています。
ただ ちょっと漠然としすぎていますね。
具体的にどんな人間に価値があるとされているのでしょうか・・・と思っていたら具体的な記述がありました。
- Inquirers
- Knowledgeable
- Thinkers
- Communicators
- Principled
- Risk-takers
- Balanced
- Reflective
- Open minded
日本語にしてみます ↓
- 探究する人
- 知識のある人
- 考える人
- コミュニケーションがとれる人
- 信念をもつ人
- リスクを取れる人
- バランスのとれた人
- 振り返りができる人
- 心を開く人
国際バカロレア認定・資格を取れたということは上述のような人間性を備えることができたという意味になります。
もちろんこれらの定義も厳密には曖昧であり、具体的な数字で管理できるわけではありません。
ですが、とりあえず国際バカロレアが目指す人間像というのはご理解頂けたのではないでしょうか。
どの学校での国際バカロレア教育を受けれるわけではない
国際バカロレア教育のDiploma (大学入学資格)については英語、もしくはフランス語・スペイン語で行われます。
Primary (小学生用)やMiddle (中学生用)については現地語で認可されている学校もありますが、基本、英語を使えないと話になりません。
2016年5月時点でのデータですが、世界の国際バカロレア認定校は以下のとおりとなっています。
ご覧の通り日本の名前がありませんが、2017年時点では、Diploma31校、Middleは11校、Primaryが21校で合計63校となっています。
それでも決して多い数字ではないですよね。ここが日本の課題。
インドネシアでも小中高合わせて48校ありますし、エクアドルなんか凄い。
ちなみに、2013年6月に安倍首相は、「一部日本語による国際バカロレアの教育プログラムの開発・導入等を通じ、国際バカロレア認定校等の大幅な増加 (2020年までに200校)を目指す」と宣言しました。
ただこの200校というのはDiploma, Middle, Primaryの合計ではなく、Diplomaだけを指しています。
日本の意思決定スピードの遅さは尋常ではありませんので、2020年までの200校オーバーは無理だと踏んでいます。
どんな人が「国際バカロレア」を意識すべきなの?
ここまでで国際バカロレアが向こう10年〜20年における最高峰のグローバル教育であることは何となく理解できたと思います。
国際バカロレア資格は世界の有名大学への切符とも取れますので、現時点で社会人として働いている人が今から意識すべきプログラムではないことは明白です。
ということで国際バカロレアの対象は、現時点で未就学児、小学生、中学生である人。若者ですね。
特に中学生は、国際バカロレア認定校で学べることを1つの基準にして高校を選んでもよいと思います。
但し、単純に「将来、グローバルに働きたい!」から国際バカロレア資格を目指すというのは明らかに間違っています。
多少業界にも寄るところはありますが、国際バカロレア教育を受けなくともグローバルに活躍することなんて幾らでもできるからです。
20年前に比べればハードルはかなり低くなっていますし、10年前に比べてもそう感じます。
さすがに「グローバルで活躍するには国際バカロレアが最低限必要」と感じる人はいないと思いますが、まだまだ国際バカロレアの認知度が低い日本においては勘違いを防ぐべく周知しなくてはならないかもしれません。
・・・と言いますのも、国際バカロレアのプログラムは激ムズなのです。
国際バカロレアではどんなことを学習・勉強するのか?
「国際バカロレアは資格ともとれる」という言い方をしたので、この記事を読んでいる人は、
「academicの響きがするから、TOEFLみたいな感じかな?」と認識する人もいるかもしれません。
・・・いやいやとんでもない。国際バカロレア資格を取得するには以下のプログラムを履修しなくてはならないのです (Diplomaです)。
いやぁ・・・。これはシンドそう。
大学のカリキュラムと言われれば納得出来る科目ですが、これらを16歳の高校生が学ぶとなると・・・。
これらの6つの科目を2年間で履修(各150時間)するのですが、その中でも3~4科目を上級レベルとして各240時間履修する必要があります。
理由は、大学やその後の職業において必要となる専門分野の知識やスキルを、大学入学前の段階で準備しておく必要があるからだそうです。
さらにさらに、Diplomaのプログラムは、上記6つの科目に加えて「コア」と呼ばれる3つの必修要件もあります。
その「コア」の内容とは以下のとおり。
- 課題論文 (= 履修科目に関連した研究分野について個人研究に取り組み、研究成果を4,000語(日本語の場合は8,000字)の論文にまとめる)
- 知の理論 (= 「知識の本質」について考え、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築に関する問いを探求する。批判的思考を培い、生徒が自分なりのものの見方や、他人との違いを自覚できるよう促す。最低100時間の学習)
- 創造性・活動・奉仕 (= 創造的思考を伴う芸術などの活動、身体的活動、無報酬での自発的な交流活動といった体験的な学習に取り組む)
いやー・・・、面白そうだけど軽い気持ちじゃ続きませんね。
国際バカロレアとTOEIC・英検などとの関連性は
Diplomaを例にとりますと、国際バカロレアのプログラムを受けるに当たり必要な英語力をチェックする英語運用能力検査というものがあるのですが、仮にTOEIC L&R 900点や英検1級を保持していても優遇はありません。
そもそも国際バカロレアのプログラムは英語で実施されますので、「英語力はある程度あって当然」と思われているようです。
日本の高校に入学するに当たって、日本語試験なんてありませんしね。
ちなみに、国際バカロレアのプログラムを受けるに当たり必要な英語力の目安は、英検2級〜英検準1級程度とのことです。
・・・本当かなぁ。
国際バカロレアは海外大学への進学を目指している、海外在住の若者向けプログラムだ
ということでサラッと国際バカロレアについてまとめてみました。
私が考える国際バカロレアの位置付けは、「海外大学への進学を目指している、海外在住の若者向けプログラム」です。
そもそも日本の大学を目指している人であれば普通に受験した方がよっぽどレベルは低いので間違いなく楽です。
また、日本では国際バカロレアの認定校自体が少なく、同時に国際バカロレアに対応した教師の数が少ないため、国際バカロレアコース専用の授業料は相当高くなってしまいます。
故に、経済的にも日本の大学を目指している人には不向きです。
百歩譲って、日本に居を構えながら、海外の大学を目指す人でしょうか。
ただ、これについてもややネガティブな要素があります。
日本には認定校が63校あると書きましたが、実はその多くがインターナショナルスクールとなっています。
ご存知の方も多いでしょうが、インターは日本の学校教育制度の要件を満たしていませんので、インターを卒業しても日本の中学卒業資格や高校卒業資格を取ったことになりません。
将来、このことが不利に働くかどうかはその人次第ですが、私の周りでは「(インターに通っていたとしても)日本人であることには間違いないのだから、日本の学校の卒業資格は満たしたい」という声が圧倒的に多く、日本の学校卒業資格は未だに大きな価値を持っています。
そんなことを言いながらも、実は「国際バカロレアのプログラムもあるし、日本の学校教育制度の要件も満たしている」という学校もあるのです。
ありますが、その数は以下の20校のみとなります (Diploma, Middleが混在しています)。
市立札幌開成中等教育学校 仙台育英学園高等学校 茗渓学園高等学校 ぐんま国際アカデミー 昌平中学校 筑波大学附属坂戸高等学校 玉川学園中学部・高等部 東京学芸大学附属国際中等教育学校 東京都立国際高等学校 山梨学院高等学校 インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 法政大学女子高等学校 サニーサイドインターナショナルスクール 加藤学園暁秀高等学校・中学校 名古屋国際中学校・高等学校 立命館宇治中学校・高等学校 英数学館高等学校 AICJ中学・高等学校 リンデンホールスクール中高学部 沖縄尚学高等学校
これらの中学、高校で国際バカロレアを学べば、日本の学校教育制度の要件も満たしていますし、国際バカロレア資格も取得できるかもしれません。
ただ、どうでしょう。知名度が極めて低い日本において、一般コースの学生たちを横目に見ながら少人数で国際バカロレアコースを3年間〜6年間学び続けるというのは大変なモチベーションが必要になるのではないでしょうか。
途中で「やっぱり一般コースに行きたい」と言いだすかもしれませんので、後は家族との相談で決まることでしょう。
そんな環境面も含めて、私個人としては「海外大学への進学を目指している、海外在住の若者向けプログラム」だと感じた次第です。