IIBC (= 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会)は、2015年11月5日にTOEICテストの出題形式を一部変更を発表しました。
→ http://www.toeic.or.jp/info/2015/i025.html
その変更内容、思惑、意図、今後の発展について考察していきたいと思います。
TOEIC(R)の出題形式一部変更への第一印象
このニュースを知った時、「おおっ!何だか面白そうだ!バージョンアップがあるんじゃないかな!? (ドキワク)」と感じました。
が、変更内容を確認してみると・・・、いやーそうでもない。そこまでワクワクするような感じでもなかった。
ま、そもそも民間の英語試験の出題形式変更に対して、ドキドキワクワクを期待するのもおかしいことではあるのですが。
改めて今回の変更をみていきましょう。 (上述URLからの抜粋)
<リスニングセクションの変更点>
1. 写真描写問題(Part 1)と応答問題(Part 2)の設問数が減ります。
2. 会話問題(Part 3)の設問数が増えます。
3. 会話問題の中に、発言が短くやり取りの多いものが加わります。
4. 3名で会話する設問があります。
5. Elisions(省略形: going toが gonnaなど)、 Fragments(文の一部分: Yes, in a minute; Down the hall; Could you?など)を含む会話が流れます。
6. 会話やトークの中で聞いたことと、問題用紙に印刷された図などで見た情報を関連づけて解答する設問が加わります。
7. 会話やトークの中で話し手が暗示している意図を問う設問が加わります。
<リーディングセクションの変更点>
1. 短文穴埋め問題(Part 5)の設問数が減ります。
2. 長文穴埋め問題(Part 6)の一つの文章に含まれる設問は3問から4問に増えます。
3. 文書の全体的な構成を理解しているか問う設問が加わります。具体的には、
(1)長文穴埋め問題で、文書内の空欄に最も適切な一文を選ぶ問題
(2)読解問題(Part 7)で、文書内に新たな一文を挿入するのに最も適切な箇所を選ぶ問題
4. テキストメッセージやインスタントメッセージ(チャット)、オンラインチャット形式で複数名がやり取りを行う設問が加わります。
5. 読解問題で3つの関連する文書を読んで理解する設問が加わります。
6. 読解問題の設問数(1つの文書、複数の文書)が増えます。
7. 文書中で書き手が暗示している意図を問う設問が加わります。
・・・はい。どうでしょう。
私はこの変更点を読んでいて、途中で飽きてしまい読むのを止めました。
色々変わるみたいですけど、とりあえず受験してみないとよく分からない。
で、今回の変更理由なんですけど、IIBCは以下のように説明しています。
テーマ:よりオーセンティック(実際的)なコミュニケーション
1. 日常場面やビジネス場面での英語によるコミュニケーション方法は、時代と共に変化しています。その変化に対応するため、Educational Testing Service(ETS)はTOEIC テストの一部を変更し、よりオーセンティック(実際的)な出題形式を採用します。
2. ETS では、TOEIC テストが今の時代の英語コミュニケーション状況を反映しているか、また現在置かれている、あるいは将来目指している環境で求められる英語能力が、確実にテストの中で問われているのか、常に検証してきました。今回の変更では、過去10 年間で頻繁に使われるようになってきたコミュニケーション方法を選択し、テスト問題として取り入れています。
3. 今回の変更では、テキストメッセージやインスタントメッセージ(チャット)といった近年よく利用されてきているコミュニケーション形式や、複数(3人以上)の人々が参加する会話形式などが新たに加えられています。また、今回の変更で特に重点が置かれているのが、複数の情報源から得られる情報を紐づける能力です。例えば地図やグラフなど問題用紙に印刷された視覚素材(Visual image)と流れてくる会話の情報を関連づけて解答する設問が挙げられます。
4. 時代に応じた内容にするために、TOEIC テストの一部は変更されますが、クオリティと難易度に変わりはありません。変更後のTOEIC テストを受験されても、スコアの意味は現行のTOEIC テストと同等であり、スコアの比較も可能です。
5. 受験者の皆様にとっては、グローバルな職場環境において英語でコミュニケーションができる能力の証明に、また企業・団体では、職場環境で求められる英語コミュニケーション能力の判断材料として、引き続きTOEIC テストのスコアをご利用いただくことが可能です。
6. これからもTOEIC テストは、日常およびビジネスにおける英語能力を測定するための公平で妥当性、信頼性の高いモノサシとしてご利用いただけます。
・・・色々と書いてありますが、コンセプトはオーセンティックなコミュニケーション能力を測るための変更、ということですかね。
ここで私はちょっと違和感を抱きました。“authentic”っていう言葉のニュアンス。
これって、「(偽物じゃなくて)本物の」というニュアンスで私は使ってきました。
(ブランド品の偽物に対しての本物。”genuine”に近い感じ?)
「実践的な、実際的な」ってことでしたら、この場合”practical”がしっくりくるような気がします。
仮にIIBCが意図的に、このようなニュアンスのもと、”authentic”を使っているようであれば、これまでのTOEICテストは全て偽りの試験だったのであろうか・・・なんてくだらない邪推をしてしまいます。
(ちなみに、ETSサイトでの発表文には”authentic”という単語は見つかりませんでした)
ま、いずれにしてもこの手の考察は不要ですね。意味が伝われば問題なしです。
かいつまんで言うと、よりビジネスの現場に近いようTOEICの内容をマイナーチェンジしたということが変更の理由でしょう。
TOEIC(R)は「よりオーセンティック(実際的)なコミュニケーション」となるのか
では、今回の変更でより実践的な英語試験になるのでしょうか。
以下のリンクに変更後のサンプル問題が記載されています。
→ http://www.toeic.or.jp/library/new/info/img/i025/Examples_of_New_Item_Types_on_the_TOEIC_Test.pdf
うーん、どうでしょうかね。
現行のTOEICと比べると、多少はより実践的な感じもしないでもないですが、そもそもスピーキングとライティング抜きの世界での話ですもんね。
従いまして、そんなに劇的に実践感が出たとは思えない。
ちなみにテキストメッセージをオフィシャルなツールとして仕事したことないですけど、他の外資系企業もしくは国内企業では一般的なのでしょうか。
「言った/言わない」の話になった時にテキストメッセージをエビデンスとして出すのってOK?
ただね、難しいとは思うんですよ。
「より実践的に」とするならば、汎用性が失われ、結果的に専門的にならざるを得ないですからね。
船会社の社員にとってはB/Lの内容をPart 5に使ってくれた方が実践的ですし、ITサービスのコールセンターで働いている人にとっては、クレームの電話をPart 3や4で扱ってくれた方が実践的となります。
ですが、これまでのTOEICテストはあくまでも汎用的なラインを超えようとはしませんでした。
TOEFLのような専門的な分野へ試験範囲を伸ばすことをしないことで、客観的な英語能力スコアを世の中に打ち出してきたのです。
従いまして、これくらいのマイナーチェンジくらいしか手を打てないのも事実かと。
そんなことを考えると、やはりTOEIC SWとの併用、もしくは英検の活用が「より実際的なコミュニケーション能力」を測る術なのではないかと思います。
TOEIC(R)受験者に求められる具体的な対策とは?
では、今回の出題形式一部変更で、TOEIC受験者は何をすればよろしいのでしょうか。
考えてみましたが、そんなに大それたことはせず、これまで通りでいいんじゃないでしょうか。
新たな教材/参考書は発売されるでしょうから、私は興味本位でそれらを使うことはあるでしょう。
しかし、抜本的にTOEICの勉強法・学習法を一新するというところまではいかないかと。
今回の変更で不安をもった人がいるならば、教材/参考書を事前に解いてバッチリの体制で臨むよりも、まず第210回公開テスト(2016年5月29日)を受験することをおすすめします。
「万全の体制にする → 受験」ではなくて、
「受験する → 対策を考える → 受験する → 対策を考える → (いつの間にか)万全の体制になっている」
が、あるべき姿だと思います。
考えてから走り出すのではなくて、走りながら考えるのがTOEICです。
なお、私は2016年1月より、TOEIC S (と呼ぶのでしょうか?)が始まりますので、それを受け続け、2016年5月からはTOEIC LRに復帰しようかなと考えています。
もしくは、その前の209回公開テストを受けるかもしれませんね。
余談
・・・とまぁ、それっぽい考察を綴ってきましたが、私はちょっと頭がおかしいヤツですので、今回の変更にまた違った感想をもちました。
それは、「ETSおよびIIBCが向こう10年のTOEIC市場 (主に日本と韓国)を考え、敢えてこのタイミングでマイナーチェンジをしたのでは?」です。
当サイトをご覧の方であればご存知だと思いますが、日本のTOEIC市場はとてつもなく巨大になっています。
書店に行けばTOEIC関連の参考書・教材で埋めつくされ、その占有率は間違いなく英検を超えているでしょう。
しかし、そんな好況も長くは続きませんし、当然IIBCもそれには気付いていると思います。
TOEIC SWの受験者数が伸びてきていると言いつつも、まだまだTOEIC LRには及ばない、良くも悪くもTOEIC LRに頼っている箇所が大きい・・・。
「もうTOEICには英語テストとして価値がない」と世間で言われる前に手を打たねば・・・と考えた上でのマイナーチェンジ。
理由は「時代の変化に対応するため」で通るし、過去のTOEICスコアと同様の扱いができることにする、まずはTOEIC大国である日本と韓国で試験的に行ってみて・・・、なーんて。
ただ、この考えには当然リスクが伴います。つまり、
1. 「これまでの勉強が無意味になるから、受験するのやめよ」と、受験者が減るリスク
2. これまでの塾・英会話教室・教材・参考書などの内容が、陳腐化され、その市場規模が縮小するリスク
3. 「TOEIC = 英語スキルのモノサシ」としていた企業がこれを機に見直すリスク
などです。
ただ、成長するには犠牲が伴うのは当然ですし、恐らくIIBCは「これらのリスク < 向こう10年の成長」と判断したのではないかと推察します。
ま、そもそもIIBCは民間企業ではなく、一般財団法人ですので営利目的で物事を考えるのはどうかと思うんですけどね。
【参考記事】 TOEIC (R) 35周年記念 その歩みを振り返る
ということで、TOEIC(R)テスト 出題形式一部変更について思ったことを書いてみました。
職業上、無駄なことが頭に浮かんでしまうこの頃ですが、純粋に英語を勉強し、実務で活かす楽しさを忘れずに、今後もTOEICと良い付き合いをしていきたいと思います。