
2014年12月2日で、TOEICは35周年を迎えました。
東京駅は100周年で記念Suicaを発売しましたので、TOEICも何か記念品を販売して欲しい今日この頃です。
ということで、今回はTOEICのこれまでの歩みを、良いことも悪いことも含めて振り返ってみます。
TOEICを開発したのは2人の日本人
TOEICの問題を作っているのが、ETS (= Educational Testing Service)であることから、もともとTOEICはアメリカから日本に来たものだと思っている人も多いようです。
しかし、実際は日本人が作った英語の試験ですからね。ただ、その権利自体はETSが未だに保有しているっていうだけで。
意外にこのことを知らない人が多い。
っていうか、IIBCもあんまりこのことを表沙汰にしようとはしていない気がします。
「グローバルな人材になるためのTOEICです!!」と言いながら、日本人が企画したものだという印象を持たれることがネガティブインパクトになると思っているのでしょうか。
従いまして、「TOEICって、日本と韓国だけで流行っている!」ってよく言われますけど、当たり前です。日本人発ですからね。
で、開発した二人の日本人というのが、一人が北岡靖男 (きたおか やすお)さん(1928 – 1997)で、もう一人が渡辺弥栄司 (わたなべ やえじ)さん(1917 – 2011)。
この二人のことを知らない人は特段何も感じないかもしれませんが、この二人は何と言いますか、とんでもない人たちで、特に渡辺弥栄司さんはかなり破天荒な人のように感じます。
尚、根本的にTOEICを立ち上げようとしたのは北岡靖男さんです (+ 三枝幸男さんという説も有り)。
たしか、1970年代に「日本人のための英語試験を作ろう!」と一念発起し、アメリカのETSに協業を持ちかけたのが始まりのはず。
しかし、当時のETSは日本の文科省とべったりだったようで、あっけなく断られたんですよね。
それもそのはず、文科省は既に英語検定、つまり英検を掲げて日本の英語試験を立ち上げていたのですから。
そんな話が文科省の耳にも入ったらしく、「北岡というヤツを潰せ」的な動きがあったのです (こんなニュアンスではないと思いますが)。
で、困ってしまった北岡さんが相談したのが、当時通産省に勤めていた渡辺弥栄司さんだったということです。
文科省サイドから根回しは行わずに、通産省経由で話を進めたってことですね。うーん、この動きは流石。
結果、1986年にTOEICの実施・運営を行う財団法人国際コミュニケーション協会を設立し、初代会長に就任したのです。
いやはや、ゼロからモノを作るときは必ず反対勢力が起きるものですね。
ちなみに、そんな歴史もあり、TOEICを日本で運営している国際ビジネスコミュニケーション協会(= IIBC)は、経済産業所が所轄している財団法人であります。
そしてお二人が尽力された結果、ついに第1回TOEIC公開テストが開催されることになります。
その告知ポスターがこちら。当時は電話での受付をしていたのですかね。そして「ETS認定」が光ります。
第1回 TOEIC 告知ポスター <http://www.toeic.or.jp/press/2014/p022.html>
最初のTOEIC公開テストは1979年12月2日に5つの年で実施され、受験者数は約3,000人であったとのこと。
5都市で3,000人ですから、1都市当たり約600人が受験したということになりますね。
各都市における試験会場数が不明ではありますが、50人を収容できる会場だとすれば、1都市当たり12会場という計算になります。
第1回の英語試験としてはかなりの数にも聞こえますね。
なお、この第1回公開テストの後、TOEICは以下のような歴史を歩むことになります。

TOEIC テストの歩み <http://www.toeic.or.jp/press/2014/p022.html>
ちなみに、TOEICスコアの基準として、730点ってのがありますよね。
あれはどうやら北岡さんが以下のように提唱したことがきっかけのようですよ。
「いずれ100万人の日本人が730点を取る時代が来る。民間人100万人が730点を取らないと真の国際交流ができない」
TOEICの闇 【私物化・フライデー・所得隠し・儲け過ぎ問題】
故人のことを今更どうこう言うのは気が引けますが、先述の渡辺弥栄司さんは、2011年に亡くなるまでにさまざまなスキャンダルが報じられました。
Wikiからの引用はこれ。
2009年、写真週刊誌『フライデー』で、上述の女性漢詩朗詠家との親密交際と、その親族の不透明人事や財団の不正経理疑惑などが報じられたほか、国際ビジネスコミュニケーション協会の関連企業の所得隠しなどが発覚し、TOEIC受験料や関連書籍などで莫大な利益を上げるTOEICマネーの行方が疑問視されるに至った
さらに2009年の日刊ゲンダイからの引用がこちら (厳密にはフライデーからの引用)。
国際コミュニケーション英語能力テスト「TOEIC」を実施する「財団法人・国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)」にも重大疑惑があると、29日発売の「FRIDAY」が報じている。
記事によれば、IIBCの渡辺弥栄司会長(92)が、親密な関係にあるMさんという女性を顧問に登用。その上、M女史の息子が昨年まで取締役を務めていた「株式会社 国際コミュニケーションズ・スクール」が、TOEICの普及業務を独占的に請け負っている。
さらに、M女史の息子は昨年、IIBCの理事長に就任。理事を経ず、いきなりの理事長就任だった。会長は妻と別居して、M女史と同じマンションの隣の部屋に住んでいる。周囲が邪推するのもムリからぬことだろう。
この件について、IIBCの事務局に事実関係を問い合わせてみたが、「会長のプライベートな部分なので、コメントできません」と語るのみ。理事長人事が会長のプライベートということ自体、問題だと思うが……。
「渡辺会長は官僚出身。東大法から商工省(現・経済産業省)に進み、大臣官房長や商工局長を歴任した実力者でした。当時の全日空社長に請われて、日中国交正常化にも尽力したとか。49歳で退官後、元タイム社アジア総支配人の北岡靖男氏とともに、IIBCを立ち上げたと語っています。漢詩などの朗読を教えていたM女史とは、30年ほど前に知り合ったようです」(IIBC関係者)
渡辺会長は「美しい人生」というブログを発信しているが、そこにはM女史や漢詩への思い入れがつづられている。通産官僚時代の自慢話も書かれていて、こうした押しの強さが功を奏したのか、TOEICの管轄官庁は、なぜか文部科学省ではなく、経済産業省だ。
「IIBCは、国際的なビジネスコミュニケーション能力の向上を目的に設立されたため、旧通産省の企業の国際展開を支援する部署の管轄となったのです。決して、IIBCの会長が通産省出身だからという理由ではありません。IIBCの不透明な経営についてですか? 現時点では、漢検のような違法行為があるとは認識しておりません」(経産省貿易振興課)
TOEICは、高得点を取ると就職や転職に有利だといわれ、今や文科省の「英検」を駆逐する勢い。問題集や関連書籍も数多く出版される一大ビジネスだ。受検者数はうなぎ上りで、08年度は171万8000人。IIBCのテスト受検料収入は、60億円以上に上る。私物化が事実だとすれば、許される話ではない。
(日刊ゲンダイ2009年5月29日掲載)
うーん、凄い (笑)
いや、疑惑とは言え、こういったことが取り沙汰される人を賞賛しすぎるのはどうかと思いますが、それまでの功績も当然ありますし、年齢も年齢ですし、凄い活力ですよね。
渡辺さんの写真を見ると物凄くカッコイイですし、人生を謳歌していたのは間違いないような気がします。

私も商社マン時代には、周りに「若くてカッコよくてモテる40代」ってのは結構いまして、そういった人たちはやっぱり(?)女性へのアプローチも盛んで、いつまでも精力的でした。
やっぱり創業者とか先駆者ってのは、こういったアクティブに活動できる人たちなんですよ。
変に老け込む20代とかでは全く立ち向かえないような。
ちなみにこの渡辺弥栄司さんですが、60歳の時に弁護士になることを決意し、65歳で司法試験に合格されたそうです。
うーん、学ぶことが多いですね。
ちなみに、TOEICはこれまでマスコミへの露出は極力避け、TOEICの方針に従順な受験生だけを見てきたところがあるので、こういった情報は意外と世の中には流れていないと思います。
が、私もただただ従順な受験生ではいたくないので、こんな過去もほじくり返してみた次第です。
現状維持を目指すと、人も企業も、そして財団法人も落ちるだけですからね。
ちょっとしたスパイスになればと思います。
TOEICは、「TOEICそのものを楽しむゲーム」であってはいけない
北岡靖男さんがTOEICという英語試験を作ろうと思った理由がこちらに記載されています。
答えているのは生前の渡辺弥栄司さんです。
「これだけ日本人が国際社会で仕事し始めると、英語の使えない日本人とか日本というものは考えられない。この状況を何とかしなくては。(中略) 国際会議でも堂々と自分の意見を主張できる。英語でけんかができ、親友も作れる。そういった生きた英語を身につけてほしい。TOEICを通して自己改造できる人を作りたい。そのことが日本を活性化する。それが北岡さんと私の共通の想いでした」<http://www.icconsul.com/centers/message005.html>
な、なるほど・・・。こういった想いからTOEICは誕生したのですね・・・。
一方で、昨今のTOEICはこの本来の目的を見失っているように思えます。
過度にTOEICのスコアを重要視する企業、テクニック先行でプロモーションする参考書、「TOEIC = 英語力」ととらえてしまう社会、TOEICスコアが高いのに、実際に英語を使って意思疎通が取れない人たち、そしてそれに対して変に開き直っている人たち、そもそもTOEIC自体がグローバルスタンダードではない事実・・・などなど。
私としては、TOEICはあくまでも「仕事で英語を使うに当たってのレベルアップ手段」くらいの位置付けですが、妙なゲームっぽい感覚を持ってTOEICに臨んでいる人は大勢います。
いると「思います」ではありません、間違いなく「います」。
北岡さんと渡辺さんの意思を汲むならば、TOEICってのは やっぱり「生きた英語」を身につける手段にすぎず、最終的には「国際会議で堂々と意見を主張する」に代表されるような、仕事に活かすことが求められているのですよ。
TOEICという英語試験をTOEICだけで完結させるのではなく、その先を見据えた上で活用しなくてはならないのです。きっと。
ただ、理想論はいくらでも言えるものであるし、完璧な英語試験など存在しません。
どんな形であれ批判はあるだろうし、常に試行錯誤が必要となります。
そんな中で不変でなければならないと思うのが、先述した「開発者の本来の意図」ではないかと思うんですよね〜。なぜTOEICという英語テストがこの世に生を得たかってこと。
ま、マクロで俯瞰すると、こういった英語力の養成は、財団法人が尽力するのではなく、中学校・高校が中心となって活動すべきなんですけどね。
話をここまで広げてしまうとややこしくなりますので、それは割愛。
ということで、TOEIC35周年を記念して これまでの歩みを、外資系営業マン的に振り返ってみました。
今回取り上げた内容を既に知っていた人も、知らなかった人も TOEICを受験する意味をもう一度考え直してみてはいかがでしょうか。