インドネシア駐在員として働く私が、人生で初めて「人をクビにした」時の話

人生で初めて人をクビにした時の話

先日、生まれて初めて人様を解雇するという行為に及びました。

私は日本で管理職経験が全くなく、インドネシアに赴任してからmanagementというものを学びながら実践しています。

解雇通知を行うことも勿論、management業務の一つではあるのですが、それにしても今、この瞬間も心の中がモヤモヤしています。

起承転結を盛り込んだ、面白おかしい文章にはなり得ないですが、このモヤモヤしている気持ちを文面に残しておこうと思います。

解雇した部下を雇うに至った経緯

彼女 (Wさん)は2019年のレバラン休暇後 (= 6月中旬)から私のチームで働き始めました。

もともと、毎日外回りに出るバリバリの営業マンというよりは内勤のイメージで、顧客データのまとめや必要情報のピックアップなどを任せれる人を探していたんです。

というのも、Wさんを雇うまでは同様の業務を別のセールスに任せていたのですが、そのセールスがチョンボをしまして。

 

彼には1枚目のwarning letterが発行されたので、「このまま彼に任せてはマズイ。専任でもう一名雇おう」という結論に至りました。

要求スペックとしては低く、給与レベルもRp. 6 juta 〜 8 juta程度 (≒ ¥ 50,000)で、経験値がなくてもOKのレベル。

とにかくしっかりとデータ管理が出来る人材を探していたんです。

 

 

6名の候補者と面接した上で採用したのがWさん

ということで先ずは人材エージェントにお願いして候補者のCVを提出してもらうことに。

ちなみにインドネシアでは以下のような転職エージェントが存在します。

  • JAC Recruitment Indonesia
  • Reeracoen Indonesia 
  • Recruit Indonesia
  • Iconic Indonesia
  • Selnajaya
  • Jobbank
  • Persol

複数のエージェントから集まった月給5万円くらいの人材10名程のCVを一気に読み上げました。

一人目・・・・ダメだ。全然ダメ。英語が出来ないと話にならない。

二人目・・・・うーん、これ人も英語ダメか・・・。

三人目・・・・えっ・・・また英語がネックだ。

四人目・・・・ちょいちょい・・・。英語できる人いないんかい。

五人目・・・・こりゃもうダメだな。英語云々は言ってられない。

 

半分を読んでようやく気付きました。

この給与レベルでは英語を使える人材がいない!

 

こうなると文句は言ってられません。

英語は使いこなせなくとも、そこそこ英語を理解できれば良い、とハードルを下げることにしました。

そんなこんなで、合計で6名の女性と採用面接を実施し、その中で最もまともだったWさんを採用することに。

そう、もともと消去法での採用だったんです。

 

 

部下からの突然の報告・要請

当社には採用後三ヶ月間の試用期間があります。

この期間中に会社は社員を見極め、社員は会社を見極めるわけです。

そして、最終的な入社意思を入社三ヶ月後に意思を確認します。

 

ただ、試用期間と言いつつも、正直形式的なもの。

入社初日から普通に仕事が与えられて、日々こなし慣れて、いつの間にかチームの一員になるというのが定石です。

にもかかわらず、入社して2ヶ月も経たないうちに、他のチームメンバーから「彼女を雇うのは止めた方が良い」と要請があったわけです。

 

「止めた方が良い」とは言うものの、ニュアンスとしては「彼女と一緒に働きたくない。クビにしてください」であることは容易に想像がつきました。

ただ、それにしても突然。唐突。

何故ならば、この時点で、私自身は彼女に対して特段おかしなことは何も感じていなかったからです。

 

 

能力がある人材を、部下の好き嫌いでクビにしてもいいのか

報告・要請を上げてきた部下曰く、「彼女にはpunctualityがなく、productivityも欠落している」と。

ただ、話を深掘りしていくと、想像通り、単純に「(人として) 合わない」模様。

おいおいおい・・・、そんな理由で解雇していいんかい・・・。

 

鮮明に憶えていますが、入社後に私がWさんから感じ取った印象は「不思議ちゃん」でした。

ただ、必ずしもそれが仕事に悪影響を及ぼしているとは思えない。

最終的な決断をするに当たり、私が最も頭を抱えたのがこの点でした。

能力がある人材を、人間関係の好き嫌いでクビにしていいのでしょうか。

 

 

事実の把握、そして他メンバーからのヒアリング

こんな要求をしたところ、そこそこの文章量でメモ書きが上がってきまして。

驚きました。

一見、大人しい不思議ちゃんに対して、ここまでも不平不満が持たれるのか。

 

私はManagerとして全く機能してませんでした。

国籍の差、性別の差、宗教の差、年齢の差は理由にあるものの、その片鱗も察することが出来ていませんでしたので。

何なら政府関係の人と癒着も少なく、賄賂無しにクリーンな取引がWさんなら実現するのでは!と期待したくらい(もちろん当社がそういった癒着があることを確認しているわけではありませんが)。

 

そして、私の直部下以外の部下にもヒアリングを行いました。

結果は同じ。皆、同様の感覚を抱いていたのです。

誰しも、決して「嫌い」という言葉は使わないものの、「Wさんとは仕事が出来ない。難しい。組織として機能しない」と口を揃えて言います。

 

そして、ようやく私も気付き始めます。

適合性・相性は大事だと。

 

 

最終決断

最終的に契約を終了することに決めました。

理由は、現メンバー、およびその他メンバーとの相性が合わないため。

色々な人たちと相談をしましたが、probation periodである今しかチャンスは無さそうです。

 

100%納得はしていないものの、良いチーム作りを目指すプロセスにおいて超えなくてはいけない壁だと理解しました。

特に、Wさんが営業時間中に眠りこけていたという事実を新たに知って、ほぼほぼ同情の余地もなくなってしまいましたし。

 

 

いざ解雇通知へ

3ヶ月間の試用期間が終わる1営業日前の金曜日。

私は敢えて、Wさんとの面談を16時に設定しました。

理由は、解雇通知を行った後、いくら試用期間内と言えども仕事をする気にはならないと感じたから。

 

私なりの最大限の配慮です。

1営業日前というのは、administrative的な手続きがあるので、最後に1日だけ余裕をもたせるため。

PCやカードなどの返却を行ったり、周りのメンバーに挨拶をすることが目的ですね。

 

そんな配慮をしたにもかかわらず、当日、ジャカルタの渋滞も手伝って私自身が16時にオフィスに到着できない事態に。

気を揉みながら、Wさんへ遅刻する旨、text messageを送りました。

すると彼女から返信が・・・。

 

「Koさん、謝らないでください!私も今朝遅刻しましたので!」

 

・・・。

私は遅刻する旨、報告を受けていませんが・・・。

申し訳ないですが、この時点で彼女に対する同情心は100%無くなってしまいました。

 

 

解雇通知 interviewの様子

interviewには上司の私と、人事部のmanager (インドネシア人、女性)の2名で臨みました。

形式的(表向きはevaluation interview)にも人事部の彼女が同席する必要があったのと、私自身が解雇通知面談が初めてだったので、何かあった時のためにフォローして貰うためです。

私のbossも社長も「Koさん、やっておいて」の一言で終わりだったのでね。

 

そして・・・Wさんが入室。

部屋に通された時のWさんの表情はとてもニコニコしていました。

そりゃそうですよね。本採用に向けての話を聞くと思っているのでしょうから。

 

しかし、私が作成したevaluation sheetを読み出すと彼女の表情は徐々に変貌を遂げることになります。

 

 

(Wさん) “contract…..not continue….?”

 

 

彼女が全体を悟った瞬間、私がまず口火を切りました。

 

定刻通りに出社出来ない時でも、上司である私に遅刻の連絡を入れないこと。

予定されていた取引先との面談を勝手にキャンセルしたこと。

キャンセルした連絡が翌日の夜であったこと。

営業時間中にもかかわらずデスクで眠っていたこと。

周りのメンバーとコミュニケーションを取ろうとしたかったこと・・・。

 

一通りの理由を説明した頃には、彼女の目には大粒の涙が溢れていました。

人事部managerは立ち上がり、彼女の隣に寄り添い、ヒジャブの上から彼女の頭を撫でながら落ち着かせてくれました。

 

しかしその後、彼女は怒涛の如く反論を繰り広げてきたのです。

ただ、その反論の内容が・・・

 

 

支離滅裂な反論・・・しかし

「遅刻したのに会社に連絡を入れなかったのは、入社して最初の一ヶ月は居心地が悪かったからです!みんな私のことを受け入れてくれなくて・・・」

 

「予定されていた取引先との面談を勝手にキャンセルしたのは・・・その時、転職活動をしていて、面接を受けていたからです!だから、会社に嘘をつきました!」

 

「営業時間中にもかかわらずデスクで眠っていたのは、私の友人が9時〜24時で遊ぶ人で、その人と行動をするようになったら朝起きれなくて、日中に眠くなってしまったんです!本当です!今はもう、その友達とは遊ばないようにしています!」

 

 

・・・もはや意味不明。

「ツッコミどころが満載でどこからツッコんでいいか分からない」とは正にこのこと。

次第に、Wさんに対して怒りすら湧いてきました。

 

しかし、

彼女が次の瞬間に口にした言葉により、

私は若干の思考変更をせざるを得なくなることに。

 

Wさん「Koさんは、この言葉の意味わかりますよね・・・。私はこの会社に入るまで、hikikomoriだったんです」

 

「えっ・・・。あぁ、はい。もちろん理解できます。引きこもりね」

先述のとおり、私は彼女のことを不思議ちゃんと形容していました。

なんとなく、この不思議ちゃん引きこもりが繋がったような気がしました。

 

職場に不快感を抱いてしまったのは、引きこもりが原因なのではないか。

コミュニケーションが苦手なのも、引きこもりが原因なのではないか。

上司に連絡するのを戸惑ってしまったのも、引きこもりが原因なのではないか。

そんな風に、一瞬にして思考が変化していったのを覚えています。

 

 

彼女が日本好きな一面を見せることは一切無かった

「引きこもり」という言葉をインドネシア人が知っているであろう理由は、

  • 日本のアニメ
  • 日本のマンガ
  • 日本のドラマ

8割方、これらのうちのどれかでしょう。

私が驚いた理由は、Wさんがこれまでに日本好きという一面を一度も見せたことが無かったからです。

 

普通であれば、職場に日本人がいたら、「Koさん、私は日本のDragon Ballがすごい好きなんですよ〜!」とか喋ったりするのですが、彼女とはそんな会話が一切ありませんでした。

故に、彼女の口から引きこもりという単語が出てきた時には驚きを隠せませんで。

ただ、しばらくたったあとの私は冷静でした。

 

引きこもりだから?不思議ちゃんだから?組織として報告をしない社員を許容して良いのか?

私だって、日本で働いていた頃、うつ病っぽくなって誰とも話したくない時があった。

それでも、周りに相談したり、逃げたり、少しずつ頑張ったりした。

決して、努力は怠らなかった。

 

 

最後は喧嘩別れの様相を呈していた

最後の最後まで彼女は思いの丈を我々にぶつけていました。

人事managerは、一つ一つの反論に対してさらなる反論(というかロジカルな説明)をしていましたが、途中から私が制止することに。

私「もういいよ。思うこと全てを話させてあげよう」

 

それからは、彼女も冷静さを取り戻し、

Wさん「でも、いくら話しても意味ないですよね。私はもうここでは働かないのですから・・・・涙」

この言葉を連呼するように。

 

最後にadministrativeなことだけを伝え、面談を終えようとすると、

Wさん「もういいです。来週の月曜日は出社しません。今日が最終日で構いません。PCもカードも全て返却しますし、給料をカットしてもらって構いません」

というコメントが。

 

彼女のプライドなのか。インドネシア人としては一般的な対応なのか。

私には細部まで理解することは出来ませんでしたが、日本人からしたら表面的には喧嘩別れでした。

 

 

今回の事例で得た経験値

多少の申し訳なさも感じながら臨んだ面談でしたが、結果的には、最初に部下が感じ取った妙な違和感が正しかったと言わざるを得ません。

私の感覚で突き進み彼女を正規雇用していたら、将来的には組織にとっても良くないし、彼女にとっても良く無かったでしょう。

 

異国の地で、初めてのmanagementは簡単なことではありませんが、私に出来ることはtry & errorの繰り返しだと思っています。

今回の事例で得た教訓、経験値を改めてまとめたいと思います。

  1. コミュニケーションが上手なインドネシア人の中にも、不得意な人もいる
  2. スキル有無だけで、個人の良し悪しを判断することは出来ない
  3. 第一印象、もしくはそれに準ずる段階での印象は90%正しい
  4. 同情は不要。managementとして組織の利益が最大化するような決断が求められる
  5. CV, 面接でパスしても、試用期間中にチームメンバーに合うか否かを見極める必要がある

 

残り少ない(であろう)インドネシア駐在生活、フルスロットルで最高のチーム作りに励みたいと思います。